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東京高等裁判所 昭和32年(お)12号 決定

請求人 猪狩正己

主文

本件について再審を開始する。

理由

本件再審請求の理由の要旨は、請求人は昭和二十九年十一月二十九日新潟地方検察庁六日町支部検察官より業務上過失致死、同傷害罪で起訴されたが、公訴事実によると、被告人(請求人は自動車運転者で日東土建興業株式会社に雇われ貨物自動車運転の業務に従事中、昭和二十九年七月十一日新潟県南魚沼郡三国村大字二居通称片崩地元において、自動車運転者としての注意義務を怠つた業務上の過失により右自動車を左側崖下に転落させ、因て藤戸玲子外二名を即死させた外星杏子外十二名に傷害を与えたというのであつて、新潟地方裁判所六日町支部で審理の結果同年十二月十六日被告人を禁錮六月に処する、但し本裁判確定の日より一年間右刑の執行を猶予する旨の判決があつたところ、検察官より控訴申立があり、東京高等裁判所において更に審理の結果、昭和三十二年九月十日原判決を破棄する、被告人を禁錮六月に処するとの判決があり当時確定した。しかし右事故を惹き起した自動車を運転したのは当時日東土建興業株式会社三国出張所長をしていた吉田平助であつて請求人ではなかつたのに、右吉田平助及び鬼沢準は検察官に対し右犯行は請求人の所為である旨虚偽の供述をなし、また第二審東京高等裁判所の法廷においても、いずれも証人として宣誓の上右と同趣旨の各証言をしたが、その後右両名は前記第二審の法廷における証言につき、昭和三十五年五月二日東京地方裁判所において、右被告事件は吉田平助が犯したものであるのに請求人が犯人である旨偽証したとして有罪の判決を受け、右判決は同月十七日確定したことが判明した。その他請求人に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したので刑事訴訟法第四百三十五条第二号又は第六号により再審を請求するというに在る。

よつて被告人猪狩正己こと広川正己に対する業務上過失致死同傷害被告事件記録及び本件再審請求事件記録に徴すると、請求人猪狩正己は、昭和二十九年十二月十六日新潟地方裁判所六日町支部で所論のような公訴事実について、有罪の判決言渡を受けたところ、検察官から右判決の量刑は不当であるとして控訴が提起され、当裁判所において右控訴事件の審理中、請求人からは右公訴事実は請求人の行為ではなく吉田平助の行為である旨主張されたのであるが、当裁判所は証拠調の結果請求人の業務上過失致死傷の事実は、第一審判決判示通りこれを認めることができるけれども、右第一審判決の量刑は不当であるとして昭和三十二年九月十日右第一審判決を破棄し、第一審判決の認定した事実につき請求人を禁錮六月に処する旨の判決を言い渡し、右第二審判決はその頃所論の如く確定した事実を認めることができる。そして右の如く請求人が第一審において有罪の判決を受けるに至つたのは、第一審判決が証拠として採用した吉田平助及び鬼沢準の検察官に対する、右業務上過失致死同傷害の被告事件は、被告人(請求人)が犯したものである旨の各供述に因るものであり、第二審判決において第一審判決の事実認定を認容したのは右鬼沢準が昭和三十二年二月十九日、吉田平助が同年三月十九日いずれも第二審たる当裁判所の法廷において、それぞれ証人として宣誓の上右検察官に対してなしたと同趣旨の右証言をなし、当裁判所はこれを信用し、従てまた第一審判決が証拠として採用した同人等の検察官に対する供述を真実と認めたためと考えられるところ、右両名は前記第二審の法廷における各証言につき、昭和三十五年五月二日東京地方裁判所において、右被告事件は吉田平助が犯したものであるのに請求人が犯人である旨虚偽の陳述をしたものとして、偽証罪により有罪の判決を受け右判決は同月十七日確定したことは本件再審請求事件記録に存する右判決謄本並びに東京地方裁判所裁判所書記官高橋寿一の証明書により、明らかである。そして右確定判決により偽証とされた第二審における右両証人の証言は、本件第一審判決の証拠とはされていないが、これと全く同趣旨の供述を内容とする右両名の検察官に対する各供述調書が第一審判決の証拠とされておるのであるから、かかる場合は、刑事訴訟法第四百三十五条第二号にいわゆる原判決の証拠となつた証言が確定判決により虚偽であつたことが証明されたときに該るものと解するを相当とする。

よつて本件請求を理由ありと認め刑事訴訟法第四百四十八条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 岩田誠 渡辺辰吉 秋葉雄治)

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